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窯を訪ねて

京焼・清水焼「京三島」

「土に華を咲かせ、心に華を咲かせる器」
華のある物作りを心掛け、使って貰った方の心を軽やかに、そして心に気を満ちてもらいたい。そんな想いで作陶に励む。
京都市山科区 森里陶苑/三代目 森里陶楽

京の都に花開いた京焼・清水焼、そこで生まれた「京三島」
有名な焼物のひとつ「京焼・清水焼」が発展した背景は、日本各地の焼物が発展した背景とは少し異なります。焼物産地の多くがその土地で「土が取れたこと」により発展した一方で、京焼・清水焼は、京に都がおかれた時代に茶人や大名の「こんな器がほしい」という要望があり、そこに高度な技術をもった職人が集り、ひとつずつ注文を受けて器を作り上げていたことで発展していきました。
そんな京焼・清水焼の器には、使い手のこだわりに応える職人の気概が感じられます。
京都山科にある窯元・陶楽陶苑(とうらくとうえん)もオーダーメイドで器を作り続ける窯のひとつ。初代陶楽が大正時代に京都の地で作陶を始めました。 線彫りや刻印で連続文様を施し、白土を埋め込む印花(いんか)という技法が特徴の三島。二代目陶楽がそれをルーツとし、他に類を見ない繊細な文様に気品を備えた色合いの器を「京三島」として京焼・清水焼の中で独自に発展・確立させました。そして三代目陶楽は、初代陶楽の意志を受け継ぎ、二代目が確立させた「京三島」をはじめとする優美で華やかな器を創り続けています。

焼物の趣と職人の技
当代・三代目が、ろくろを回し土から器の形を作りだしていきます。始めは力を込めて成型し、次にヘラを使って生地の厚みを整えていきます。生地の薄さや口元の反り上がりなど、すべては職人の経験と勘によって仕上げられるのです。
「トンボという道具で確認はするけれど、どうしてもサイズ感のムラはできる。それが焼物の趣。でも、ムラがあまり出来ないように作るのが、職人の技なんです。」と三代目。
京三島に使う土にもこだわりがあります。各地の土を配合し、その都度焼き上がりを見て調整します。京三島特有の柔らかな紫色を出すため、素材から妥協をしないのが職人です。

スピードと美しさ、職人が咲かせる印花文様
焼物の制作工程で、成型した生地を乾かすのも重要な工程です。湿度管理がされたムロと呼ばれる場所で、ゆっくりと乾かします。ある程度乾いたら、線彫りや「印花」という刻印で連続文様をつける加飾を行います。三代目の奥様が、手作りの型をリズミカルに動かすと、手元の器にどんどん花が咲いていきます。「スピードと美しさ。この2つが大切。」と話す奥様。刻印の間隔が詰まりすぎたりしないのは、長年培われた職人の感覚によるものです。
陶楽陶苑では、器作りに使うすべての道具を手作りしていますが、刻印の型も例外ではありません。繊細な花形などの、大小様々な刻印がひとつひとつ手作業で作られています。印花という技法は、手作りの型(刻印)を組み合わせてデザインを作るので、同じデザインになりにくく、組み合わせ次第で無限に文様が生まれます。

器に化粧を施し、浮かび上がる白い花
刻印が終わると、次は「白化粧」という工程です。
器を成型する赤土とは異なる白い泥(デザインや加飾を施すための化粧土を水で柔らかくしたもの)に、器をドボンとつけ、全体に白くゆるい土を纏わせます。こうすることで、生地がへこんでいる刻印を施した部分には白い土が多く溜まり、白い花・印花文様が浮かび上がります。
ほんの少し化粧土のかかり方が違うだけで、焼き上がりの色目は変わります。これも手作業で化粧土をかけているゆえの面白さです。
白化粧という工程後、より粘度の高い化粧土を使って筆で花をつけていきます。描くというよりも化粧土を盛る感じから「筆盛り」と呼ばれる工程です。絶妙なバランスを保ちながら、2つの技法を組み合わせることで、雰囲気の異なる白い花が器の表面に咲いていきます。

1つ1つの個性を大切に、器がもたらす豊かさ
筆盛りの工程が終わると、釉薬をかけ、いよいよ最終工程「本焼き」です。30年間使い続ける窯へ入れ、1,200度で焼き上げます。焼き上がりは窯によっても違うそう。その窯のクセや特徴をふまえて、焼き上げる器を窯入れしていきます。はじめは整然と並んでいたであろう電熱線が、今では大きく動いています。「使い続けるうちに徐々にひねくれてくる。人間と同じや。」と語り、今も大切に使い続けています。
焼き上がった器の景色や表情に違いが生まれ、1つ1つ個性があることこそ手でつくることの面白さ。“手で作るから気持ちが伝わる”、今後はそういう部分こそが大切で、器によって、普通に食事をする以上の豊かさが生まれることが大切なのです。
「不思議なもので、気分がのっているときに作ると良いものが出来る。」と話す三代目に、良いものは手元に残しておきたいと思わないのか?と問うと、「そういうものから無くなっていく(売れていく)」と柔らかく笑います。

想いを受け継ぎながら、作陶を続ける
京焼・清水焼は、茶の湯や京料理に使われるため、手に持ったときの感覚を大切に作られます。使い手の要望にそって、どんな器も作り出す。様々な器が生まれる中で、一貫して変わらないのは、職人の器にかける想いと、高度な技、そして個々の違いを趣として楽しむ心です。「その昔、焼物は自然と一緒だった。木を灰にしたものを使うとか。その分出来上がりは安定しない。でも、それが焼物の面白さ。」そう語る三代目が手がける「京三島」は、日々の暮らしに花を咲かせ、心地よさをもたらしてくれるでしょう。

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